食物三徳御書

 たからとす。魚は水をおやとし、鳥は木を家とす。人は食をたからとす。かるがゆえに、太宗云わく「王は民をおやとし、民は食を天とす」とかかれたり。
 食には三つの徳あり。一には命をつぎ、二にはいろをまし、三には力をそう。人に物をほどこせば、我が身のたすけとなる。
 譬えば、人のために火をともせば、我がまえあきらかなるがごとし。
 悪をつくるものをやしなえば、命をますゆえに気ながし、色をますゆえに眼にひかりあり、力をますゆえにあしはやくてきく。かるがゆえに、食をあたえたる人、かえりていろもなく、気もゆわく、力もなきほうをうるなり。
 一切経と申すは紙の上に文字をのせたり。譬えば、虚空に星月のつらなり、大地に草木のさせるがごとし。この文字は、釈迦如来の気にも候なり。気と申すは生気なり。この生気に二つあり。一には九界。

 

現代語訳

宝とする。山の中には塩をたからとする、魚は水ををやとし鳥は木を家とする。人は食を宝とする。

ゆえに、大国の王は民を親のように思って大切にし、国の民は食物を天の如く尊重する、と書かれている。食物には三つの徳がある。一には生命を継ぎ、二には色を増し、三には力を強くする徳である。

人に物を施せば我が身を助けることになる。例えば人のために灯をともしてやれば自分の前も明るくなるようなものである。悪を為すものに物を施すならば、生命力を増すゆえに生気が長くなり、色を増すゆえに目に光りが宿り、力が強くなるために足が早く、手がよくきくようになる。そのために食を施した人はかえって色を失い、生気も弱くなり、力もなくなるという報いを受けるのである。

一切経というのは紙の上に文字を載せたものである。譬えば大空に星月が連なり、大地に草木が生えているようなものである。この文字は釈迦如来の気でもある。気というのは生気のことである。この生気に二ある。一には九界。

 

語句の解説

 

講義

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