要文
なによりも入道殿の御所労、なげき入って候。「しばらくいきさせ給いて、法華経を謗ずる世の中御覧あれ」と候え。
瓜一籠・ささげひげこ・えだまめ・ねいも・こうのうり、給び候い了わんぬ。
付法蔵経と申す経には、いさごのもちいを仏に供養しまいらせしわらわ、百年と申せしに一閻浮提の四分が一の王となる。いわゆる阿育大王これなり。法華経の法師品には「しかも一劫の中において」と申して、一劫が間、釈迦仏を種々に供養せる人の功徳と、末代の法華経の行者を須臾も供養せる功徳とたくらべ候に、「その福はまた彼に過ぎん」と申して、法華経の行者を供養する功徳はすぐれたり。これを妙楽大師釈して云わく「供養することあらん者は福十号に過ぐ」と云々。されば、仏を供養する功徳よりもすぐれて候なれば、仏にならせ給わんことは疑いなし。その上、女人の御身として尼とならせ給いて候なり。いよいよ申すに及ばず候。
ただし、さだめて念仏者にてやおわすらん。とうじの念仏者・持斎は、国をほろぼし、他国の難をまねくものにて候。日本国の人々は、一人もなく日蓮がかたきとなり候いぬ。梵王・帝釈・日月・四天のせめをかぼりて、とうじのゆき・つしまのようになり候わんずるに、いかがせさせ給うべき、いかがせさせ給うべき。
なによりも入道殿の御所労、なげき入って候。「しばらくいきさせ給いて、法華経を謗ずる世の中御覧あれ」と候え。日本国の人々は、大体はいけどりにせられ候わんずるなり。日蓮を二度までながし、法華経の五の巻をもってこうべを打ち候いしは、こり候わんずらん。
七月二十六日 日蓮 花押
御返事
背景と大意
この書簡は、弘安2年（1275年）7月26日に、高橋在家夫人（窪尼）が日蓮大聖人への供物として身延に野菜を送ってくれたことへの感謝の手紙として書かれたものです。 大聖人は、ある少年が釈迦牟尼仏に砂の餅を贈ったことが、その後の人生で阿育大王となるきっかけとなったと述べています。 そして、法華経の一節と妙楽の経典注釈を引用し、末法の法華行者に供養をする者は、福徳において仏陀に供養をする者に勝ると宣言しました。 したがって、高橋六郎兵衛入道の妻自身も必ず仏陀になれるだろうと大聖人は述べています。 大聖人は、彼女が在家尼となったことは、仏法に精進する決意の表れであるとも述べています。
また大聖人は、病状が重篤となった夫の身を案じ、法華経を誹謗し行者を迫害するこの国がどうなるのか、もう少し生きて見届けなさいと言いなさいと窪尼に懇願されました。
現代語訳
高橋夫人への返信
私は瓜１かご、ササゲ１かご、枝豆、里芋、瓜のピクルスをもらいました。 『仏陀後継者経』（付法蔵経）と呼ばれる経典には、仏陀に砂の餅を贈った少年が釈迦の没後100年後に生まれ変わり、一閻浮提の4分の1の領土の王になると予言されています。 それが阿育大王でした。
法華経の「法師品」では、一劫の長さを述べ、その期間にわたって釈迦にさまざまな供養をする功徳を、たとえ短期間であっても末法の時代に法華経の行者に供養する功徳を比較しています。 その人の「福徳はさらに大きくなる」とあり、法華経の行者に供養をすることの功徳がすぐれていると教えています。 この点について妙楽大師は、「布施を施す者は、十功位を超える福徳を享受するであろう」と仰せられました。さらに、女性としての境遇にもかかわらず、あなたは在家修道女（尼）になったのです。 したがって、それはますます確実です。
しかし、中には二人とも念仏者になるよう勧める人もいることは間違いありません。 現在の念仏者・持斎こそが、国を破滅させ、隣国からの侵略の災いを招いているのです。 日本国民は例外なく日蓮の敵となったのです。 もし彼らが梵王・帝釈・日月・四天から非難を受けて、当時の壱岐や対馬と同じような悲惨な状況に陥ったらどうなるでしょうか。
しかし、私が最も悲しんでいるのは、高橋六郎兵衛入道の病気の事です。 法華経を誹謗するこの世界がどうなるか、もう少し生きて見守って欲しいと願っています。 日本の国民の大部分は生け捕りになる事でしょう。 おそらく彼らは、私を二度追放し、法華経第五巻の巻物で頭を打ったことを後悔するでしょう。
日蓮
7月26日
返事として書いたもの