兵衛志殿女房、絹片裏給び候い了わんぬ。この御心は法華経の御宝前に申し上げて候。
まこととはおぼえ候わねども、この御房たちの申し候は「御子どもは多し。よにせけんかつがつとおわする」と申し候こそなげかしく候えども、「さりとも」とおぼしめし候え。恐々謹言。
十一月二十五日 日蓮 花押
兵衛志殿女房御返事
現代語訳
兵衛志殿女房より供養の絹の片裏をいただきました。このお志は法華経(御本尊)の御宝前に申し上げておきました。
本当のこととは思ってはおりませんが、この御房たちのいうには、あなたが子がないので、人生をふっつり思いきって、さびしく過ごしていらっしゃるといっておりましたが、そのことは嘆かわしいことです。
だが子供がいなくとも、決して嘆くことなく、御本尊を抱きしめ、希望に燃えて、力強い一生を生ききっていきなさい。恐恐。
十一月二十五日
日 蓮 在 御 判
兵衛志殿女房御返事