慈覚大師事 第四章(台密の謗法を結び正法護持を勧める)

慈覚大師事 第四章(台密の謗法を結び正法護持を勧める)

 弘安3年(ʼ80)1月27日 59歳 大田乗明

しかれば此等の人人は釈迦・多宝・十方の諸仏の大怨敵・梵釈・日月・四天・天照太神・正八幡大菩薩の御讎敵なりと見えて候ぞ、我が弟子等此の旨を存じて法門を案じ給うべし、恐恐。

       正月二十七日                             日蓮花押

     太田入道殿御返事

現代語訳

だからこそ、これらの人々は釈迦・多宝・十方の諸仏に対して大怨敵であり、梵天・帝釈・日天・月天・四天王・天照太神・正八幡大菩薩の諸天善神の御敵と見える。我が弟子たちよ、この趣旨を銘記して法門を考えなさい。恐恐。

正月二十七日                             日蓮花押

太田入道殿御返事

 

語句の解説

釈迦

釈迦仏、釈迦牟尼仏の略称、たんに釈迦ともいう。釈迦如来・釈迦尊・釈尊・世尊とも言い、通常はインド応誕の釈尊。

 

多宝

多宝如来のこと。東方宝淨世界に住む仏。法華経の虚空会座に宝塔の中に坐して出現し、釈迦仏の説く法華経が真実であることを証明し、また、宝塔の中に釈尊と並座し、虚空会の儀式の中心となった。

 

十方の諸仏

十方と上下の二方と東西南北の四方と北東・北西・南東・南西の四維を加えた十方のことで、あらゆる国土に住する仏、全宇宙の仏を意味する。

 

怨敵

仏及び仏の正法、またはその修行者に怨をなす敵をいう。謗法の者。

 

梵釈

大梵天王と帝釈天王のこと。①梵天。三界のうち色界の忉利天にいて、娑婆世界を統領している色界諸天王の通称である。この天は色界の因欲を離れて寂静清静であるという。このうちの主を大梵天王といい、インド神話では、もともと梵王は万物の生因、すなわち創造主とするが、仏教では諸天善神の一つとしている。②帝釈。釈迦提桓因陀羅、略して釈提桓因ともいう。欲界第二の忉利天の主で、須弥山の頂の喜見城に住して、三十三天を統領している。③法華経では、梵天・帝釈は眷属の二万の天子とともに、法華経の会座に連なり、法華経の行者を守護すると誓っている。

 

日月

日天子、月天子のこと。また宝光天子、名月天子ともいい、普光天子を含めて、三光天子といい、ともに四天下を遍く照らす。

 

四天

四天王、四大天王の略。帝釈の外将で、欲界六天の第一の主である。その住所は、須弥山の中腹の由犍陀羅山の四峰にあり、四洲の守護神として、おのおの一天下を守っている。東は持国天、南は増長天、西は広目天、北は多聞天である。これら四天王も、陀羅尼品において、法華経の行者を守護することを誓っている。

 

天照太神

日本民族の祖神とされている。天照大神、天照大御神とも記される。地神五代の第一。古事記、日本書紀等によると高天原の主神で、伊弉諾尊と伊弉冉尊の二神の第一子とされる。大日孁貴、日の神ともいう。日本書紀巻一によると、伊弉諾尊、伊弉冉尊が大八洲国を生み、海・川・山・木・草を生んだ後、「吾已に大八洲国及び山川草木を生めり。何ぞ天下の主者を生まざらむ」と、天照太神を生んだという。天照太神は太陽神と皇祖神の二重の性格をもち、神代の説話の中心的存在として記述され、伊勢の皇大神宮の祭神となっている。

 

八幡大菩薩

天照太神とならんで日本古代の信仰を集めた神であるが、その信仰の歴史は、天照太神より新しい。おそらく農耕とくに稲作文化と関係があったと見られる。平城天皇の代に「我は是れ日本の鎮守八幡大菩薩なり、百王を守護せん誓願あり」と託宣があったと伝えられ皇室でも尊ばれたが、とくに武士階級が厚く信仰し、武家政権である鎌倉幕府は、源頼朝の幕府創設以来、鎌倉に若宮八幡宮をその中心として祭ってきた。

 

讎敵

「カタキ」と読む。

 

花押

文書・手紙が自己の意思に基づくものであることを証明するしるし。

講義

「法華最第一」の仏説に背いて、慈覚の唱えた「真言第一・法華第二」の邪義を立てている比叡山の座主は、釈迦・多宝・十方の諸仏の大怨敵であり、梵釈・日月・四天・天照太神・正八幡大菩薩の御讎敵であると断じられている。「法華最第一」は釈迦・多宝・十方の諸仏によって説かれ確認されてきたところであり、この法華最勝の義を説き広める法華経の行者を梵天・帝釈以下の諸天善神は、必ず守護すると誓っているからである。最後に「我が弟子等此の旨を存じて法門を案じ給うべし」と述べられ、これまで説いてきた台密の座主たちの謗法をしっかりと認識して、法華経第一の法門を明白に銘記すべきことを教示されて、本抄を結ばれている。
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