石本日仲聖人御返事

 同時に二仏に亘るか、はたまた一方は妄語なるか。近来、念仏者、天下を誑惑するか。早々御存知あるべきか。
 そもそも、駿馬一疋追い遣わさること、存外の次第か。事々見参の時を期す。恐々謹言。
  九月二十日    日蓮 花押
 石本日仲聖人御返事
  この間の学問、ただこのことなり。また真言師等、奏聞を経るの由、風聞せしむ。

現代語訳

同時に二仏にわたるのか、それとも一方は妄語であるのか。近来、念仏者が天下をたぶらかし惑わしている。早々にこのことを知るべきであろう。

ところで、駿馬を一疋わざわざ贈られたことは思いがけないことである。種々のことはお会いした時に申し上げよう。恐恐謹言。

九月二十日                    日蓮 在 御 判

石本日仲聖人御返事

この間の学問は、ただこのためである。また真言師等が奏聞したとのうわさがある。

 

語句の解説

妄語

虚言のこと。十悪のひとつ。一般世間での妄語は、その及ぼす影響は一時的・小部分であるが、仏法上の妄語は、それを信ずる人を無間地獄に堕さしめ、さらに指導者層の妄語は多くの民衆を苦悩に堕しめることになる。正法への妄語はなおさらである。

 

念仏者

念仏宗(浄土宗)を信じる人・僧侶。念仏とは本来は、仏の相好・功徳を感じて口に仏の名を称えることをいった。しかし、ここでは浄土宗の別称の意で使われている。浄土宗とは、中国では曇鸞・道綽・善導等が弘め、日本においては法然によって弘められた。爾前権教の浄土の三部経を依経とする宗派であり、日蓮大聖人はこれを指して、念仏無間地獄と決定されている。

 

誑惑

たぶらかすこと。

 

駿馬

すぐれてよく走る馬。

 

見参

お目にかかること。

 

石本日仲聖人

「石」の字は岩の転写ミスと思われる。岩本実相寺に住していた日仲ことであろう。日仲については不明である。一説には日興上人の弟子であるともある。

 

真言師

真言宗を奉ずる僧侶。真言宗とは、三摩地宗・陀羅尼宗・秘密宗・曼荼羅宗・瑜伽宗等ともいう。空海が中国の真言密教を日本に伝え、一宗として開いた宗派。詳しくは真言陀羅尼宗という。大日如来を教主とし、金剛薩埵・竜猛・竜智・金剛智・不空・恵果・弘法と相承したので、これを付法の八祖とし、大日・金剛薩?を除き善無畏・一行の二師を加えて伝持の八祖と名づける。大日経・金剛頂経を所依の経として、これを両部大経と称する。そのほか多くの経軌・論釈がある。顕密二教判を立て自らの教えを大日法身が自受法楽のために示した真実の秘法である密教とし、他宗の教えを応身の釈迦が衆生の機根に応じてあらわに説いた顕教と下している。なそ、弘法所伝の密教を東密というのに対して、天台宗の慈覚・智証によって伝えられた密教を台密という。

 

風聞

ほのかに聞くこと。うわさ。

 

講義

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