石給びて候。御はつおたるよし、法華経の御宝前に申し上げて候。かしこまり申すよし、げんざんに入れさせ給い候え。恐々謹言。
十月二十一日 日蓮 花押
御所御返事
現代語訳
白米を、○石頂戴し、御初穂(新米)であることを法華経の御宝前へ申し上げた。謹んで御礼を申し上げたいと見参して伝えてほしい。恐恐謹言。
十月二十一日 日蓮 在 御 判
御所御返事
語釈
はつを
新米のこと。
講義
本抄は門下の誰かが大聖人に新米を御供養したことに対する返礼の御手紙である。御真筆の年については弘安元年(1278)であるとされている。御供養した人は不明であり、与えられた人も、御書には「御所」とあるのみで不明である。本抄は日興上人が代筆されており、それが総本山に存している。
最初の部分が欠けているが「石」とはたぶん、米を計量する単位はの「石」であろう。「はつを」は本来、最初に収穫された米について言われていたが、後世、転じて、収穫物一般についても言われるようになった。
一般社会でも、初穂は神仏に捧げる習慣があったが、御供養した人は、何はさておいても日蓮大聖人のもとへ届けてきたのであろう。その真心を謹んで「法華経の御宝前」に申し上げたと仰せである。この「法華経の御宝前」とはいうまでもなく、人法一箇の御本尊である。
「けさんに入らさせ給い候へ」と仰せになっているのは、大聖人が丁重に礼を申していたことを御供養した人に直接会って伝えてほしいと、本抄を与えられた人に託しておられるのであろう。本抄をいただいた人、御供養した人が親密な関係にあったことをうかがわせる。「御所」は高貴な人の敬称に用いられるところから、御供養した人が側近であったとも考えられる。直接会えない人に対しても、礼を尽くされる大聖人の御心が拝される。